先に結論からお伝えします。部屋を賃貸に出すと、オーナーとしての賠償リスクは個人賠償責任保険では基本的に補償されません。 別途、施設賠償責任保険などでの備えが必要です。
転勤や住み替え、相続をきっかけに「マンションの一室を賃貸に出す」方は少なくありません。このとき意外と見落とされがちなのが、貸主(オーナー)としての賠償リスクです。「個人賠償責任保険に入っているから大丈夫」と思っていたら、実は賃貸に出した部屋は対象外だった——そんな”加入しているつもりの空白”が生まれやすいポイントを、典型的な事故例とあわせて解説します。
賃貸に出した部屋は、個人賠償責任保険の対象外になる
賃貸に出した部屋で起きた事故によるオーナーの賠償責任は、個人賠償責任保険では基本的に補償されません。 理由は、補償の前提が「自分が住むための住宅」だからです。
火災保険や自動車保険に特約として付けることが多い個人賠償責任保険(日常生活賠償特約)は、「日常生活での偶然な事故」や「自分が住むための住宅の所有・使用・管理に起因する事故」による賠償を補償するものです。
部屋を他人に貸して家賃収入を得ると、その部屋は保険の上では”住まい”ではなく**収益物件(貸家・貸室)**という扱いになります。不動産賃貸は小規模でも「業務」とみなされるため、業務に起因する賠償は個人賠償責任保険の対象外とされているのが一般的です(補償範囲の細かい規定は保険会社・商品により異なります)。
つまり、自宅に住んでいた頃と同じ保険のままでは、オーナーになった瞬間に補償の穴が生まれるのです。個人賠償責任保険がどこまでをカバーするのかは、関連記事「個人賠償責任特約、家族のどこまで補償される?」(No.5)でも詳しく解説しています。
床下配管からの水漏れ——オーナーが賠償する典型パターン

建物設備の劣化が原因の事故は、住んでいる入居者ではなく、部屋の所有者であるオーナーが賠償責任を負うのが原則です。 賃貸オーナーの賠償事故でとくに多いのが漏水事故です。
たとえば、貸しているマンションの床下を通る給排水管が経年劣化で破損し、階下の部屋に水が漏れて天井・壁・家財に損害を与えたケース。入居者には落ち度がなく、原因は建物側の設備の劣化です。
法律上も、建物などの工作物の設置・保存に欠陥(瑕疵)があって他人に損害を与えた場合、まず占有者(入居者)が責任を負い、占有者が損害防止に必要な注意をしていたときは所有者が賠償責任を負うと定められています(民法717条・土地工作物責任)。この所有者の責任は、過失がなくても免れられない重いものです。また、賃貸人(オーナー)は賃貸物の使用に必要な修繕義務を負うとされており(民法606条)、配管など設備の維持管理はそもそもオーナーの仕事です。
マンションの場合は、どこからの漏水かで責任の所在が変わる点も押さえておきましょう。
- 専有部分(部屋の床下・壁内を通る枝管など)からの漏水 → 部屋のオーナーの責任になりやすい
- 共用部分(縦系統の共用配管など)からの漏水 → 管理組合側の問題になりやすい
専有部分と共用部分の区分けは管理規約によります(国土交通省「マンション標準管理規約」では、専有部分にある枝管は専有部分側と整理されています)。

階下への漏水は、内装の復旧工事や家財の弁償、被害世帯が複数に及ぶケース、営業店舗への損害などを含めると、数十万〜数百万円規模になることも珍しくありません。
オーナーに必要なのは「施設賠償責任保険」
施設賠償責任保険(施設所有(管理)者賠償責任保険)とは、建物や設備の欠陥・管理の不備が原因で他人にケガをさせたり他人の物を壊したりした場合の、法律上の賠償責任を補償する保険です。 貸主としての賠償リスクをカバーする中心的な手段になります。

- マンション一室だけを貸す個人オーナーでも加入できます
- 火災保険に建物オーナー向けの賠償特約として付帯できる商品もあります
- 補償の大きさに対して保険料は比較的手頃なことが多い分野です(物件の規模・条件によります)
「事業活動向けの賠償保険」と聞くと大げさに感じるかもしれませんが、部屋を1室貸した時点でオーナーは立派な”施設の所有者”です。日常生活賠償(個人賠償)と施設賠償は守備範囲が違う、と覚えておいてください。
なお、賠償のほかにも、事故後の家賃収入の途絶や、入居者の死亡事故に伴う費用などを補償する家主費用・利益系の保険もあります。物件や貸し方に応じて組み合わせを検討しましょう。
長期の火災保険ほど「報告漏れ」が起こりやすい
部屋を貸すことにしたら、火災保険の契約先(代理店・保険会社)への連絡が必要です。 実務で多いのが、この用途変更の報告漏れです。
火災保険は「所有者が自分で住む建物」か「貸している建物」かで契約条件や保険料が変わります。自宅として契約した長期の火災保険に入ったまま賃貸に出し、保険会社への連絡を忘れているケースが意外と多いのです。建物の用途など契約の前提が変わったときの通知は、約款上の通知義務とされているのが一般的で、怠ると、いざ事故が起きたときに保険金が削減されたり支払われないおそれがあります。
- 長期契約で加入時の記憶が薄れている
- 個人賠償責任保険に入っている安心感で、見直しをしていない
この2つが重なると、「報告漏れ+賠償保険の空白」という一番危ない状態になります。
貸す前・貸している今のチェックリスト

賃貸オーナー(これからなる方も)の保険チェックポイントです。
- 火災保険の契約先に「賃貸に出す(出した)」ことを連絡したか(用途変更の通知)
- オーナーの賠償リスクに備える施設賠償責任保険(または賠償特約)に加入しているか
- 個人賠償責任保険で「賃貸でもカバーされるはず」と思い込んでいないか
- 入居者側に借家人賠償責任保険・個人賠償への加入を求めているか(賃貸借契約の条件)
- 家賃収入の途絶など、貸主特有のリスクへの備えは必要か
よくある質問
Q. 分譲マンションを貸すと、いま入っている火災保険はどうなりますか?
A. 契約はすぐ無効になるわけではありませんが、「自己居住」から「賃貸用」への用途変更は保険会社への通知事項です。連絡しないままだと事故時の保険金支払いに影響するおそれがあるため、貸すと決めた段階で契約先にご連絡ください。
Q. 施設賠償責任保険の保険料はどのくらいですか?
A. 物件の規模・構造・補償額によりますが、区分所有1室であれば補償の大きさに比べて手頃な水準に収まることが多い分野です。火災保険の特約として付けると単独契約より簡便な場合もあります。見積もりでご確認ください。
Q. 入居者に保険を付けてもらえば、オーナーの保険は不要では?
A. 入居者が入る借家人賠償責任保険は「入居者が部屋に与えた損害」等をカバーするもので、建物設備の欠陥によるオーナーの賠償責任は対象外です。守備範囲が異なるため、両方が必要です。
Q. 管理会社やサブリース会社に任せていれば大丈夫ですか?
A. 管理を委託していても、建物の所有者としての責任(民法717条)はオーナーに残ります。管理会社の保険でどこまでカバーされるかは契約によるため、自身の備えとして確認が必要です。
Q. 入居者がいない空室期間はどう考えればいいですか?
A. 長期間の空室・空き家は、また別の保険上の論点(引き受け条件の変化など)があります。関連記事「空き家になる前に」(No.21)をご覧ください。
まとめ|貸す前に、証券を持ってご相談ください
賃貸に出した部屋の賠償リスクは個人賠償責任保険では基本的にカバーされず、施設賠償責任保険などの備えと、火災保険への用途変更の連絡が必要です。
サポートフォースでは、複数の保険会社を取り扱う京都の代理店として、いまの契約内容の確認から「貸すなら何が必要か」の整理までまとめてお手伝いできます。マンションや実家を貸している方・これから貸す予定の方は、保険証券をお手元にお気軽にご相談ください。
出典・参考
- 民法717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)・民法606条(賃貸人による修繕等) — e-Gov法令検索
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)及びコメント」(専有部分・共用部分の配管の区分について) — https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/mansionkiyaku.html
- 個人賠償責任保険・施設賠償責任保険の補償範囲は各保険会社の約款・パンフレットに基づく一般的な整理です。個別の契約条件は必ずご自身の約款・契約先でご確認ください。